さて、直前の記事でKZ ZS10 Proを紹介しましたが、このZS10 Proはただ単にZS10の性能向上というわけではないようです。ひいてはKZのこれからの展望をも決めてしまうポテンシャルを持つ、キーパーソンならぬキーイヤホンである可能性があります。
KZ ZS10の進化バージョンとしてのとらえ方
ZS10 Proは、ネーミングからしてZS10のアップグレード版としてのとらえ方もできますが、近年のKZの集大成的なとらえ方もできます。まずはZS10からの進化を見ていきます。
外見上の進化は明らかで、ZS10では全体が樹脂製筐体でしたが、ZS10 Proではフェースプレートが金属製に変更されました。またこの金属プレートはZSNやZSN Proとは違い、鏡面仕上げステンレスであるようで、今までのKZのどこかチープな印象とは程遠いものです。
音質的な面でいうと、ZS10はBAが30095(2個)、 30060x2(2個)、そして10mmDDであるのに対して、ZS10 ProではBAの構成はそのままでDDが新たに二重磁気回路ダイナミックに置き換えられています。先ほども少し触れましたが、KZ公式ストアの説明によりますと従来型DDと比較して出力がなんと2倍になったようです。さすがに2倍は言い過ぎだと思うんだけど…
他の部分に変更はない、と思いましたが小さな変更が二つありました。
まず一つは、高域を担うBAである30095のうち一つの配置がZS10とは異なります。ZS10をはじめとして今までのKZのBA搭載イヤホンは必ずといっていいほどツイーターをノズル部に仕込んでいましたが、ZS10 Proでは一つがノズル部、もう一つが筐体内にあります。これによる効果がいかなるものかはわかりませんが、ツイーターのうちの一つが距離を隔てたところに配置されたことで高音のキンキンした感じを抑える効果、それとBAどうしの共振による悪影響を払拭する狙いがあるのかもしれません。
二つは、ケーブルのコネクタ形状が変わりました。ZS10まではKZ式ではBピンという名前、つまりカスタムIEM互換のピン形状だったのが、ZS10 ProではCピンという、qdc互換型に変わりました。一応CピンもBピンもピン間隔が同じであるため、BピンのケーブルはCピンのイヤホンに使えますが、逆は無理です。ちなみにCピンのほうがピンの折れにくさという点では優秀です。
KZの集大成としてのとらえ方
さて、もう一つこのZS10 Proが担っている役割というのが、KZの集大成としてのふるまいです。
これまでKZが輩出してきたイヤホンはほとんどが固有の筐体であったのに対し、ZSN・AS10発売以降は共通の筐体を利用した製品が目立ちます。例えばAS06やAS16といったピュアBA系は基本的にAS10の筐体が、ZSN ProやZS10 Proといったハイブリッド系ではZSNの筐体が利用されています。
これは一種KZがメーカーとしての方向性を決定したといえることです。というのも、筐体を共通化した=今後発売する製品のベースが決まったということになるからです。ピュアBAはAS10同様にリッチなサウンドテイストに、ZS10 Proを含むハイブリッドはZSN同様にクール系のサウンドテイストであるということは、現在販売されているKZイヤホンを見れば明らかです。
KZはどうなっていく?
今後はハイブリットの安定性重視・ZSシリーズとピュアBAで奇抜さ煌びやかさ重視・ASシリーズというのが固定化しそうです。今現在すでにDDオンリーのイヤホンの更新はなく、新製品が発表されるのはZSシリーズとASシリーズのみです。
BAシリーズもBA10が出たきりで今後どうなっていくのか気になるところですが、ODM(委託設計生産)を見ていてもBA10に類似したイヤホンはなく、BA10でディスコンの可能性もあります。そもそもAS10とBA10をほぼ同時に発表した真意がわかりませんが、おそらくピュアBAの中で攻撃性の高い音にするのか、ピュアオーディオ風の音にするのかを決めるためのマイルストーンであった可能性があります。
またZSシリーズも行く先が案じられます。ZS7は日本版Amazonで普通に販売されているのもみますし、多くの方がレビューを書いているのですが、なぜかKZ公式ストアには並んでいません。Campfire Audio風の外見は話題になりましたが、KZも知名度を上げてきた手前、パクリだけでは風当たりが強いのかもしれません。まぁオリジナリティで勝負を仕掛けられる会社に成長してきたというのは素晴らしいことですが。話を戻すと、ZSシリーズは今後1DD + 4BAと1DD + 1BAの構成に固定化される可能性がまぁまぁ高いです。ZS6のような2DD + 2DDという面白い構成はもう見れないのかもしれません。
一方のASシリーズは、現在KZが一番重点を置いている模様で、AS10以降立て続けにAS06、AS16、そして今度はAS12が発売されます。二重磁気回路ダイナミックが一種KZ製DDの頂点であることは確かで、現在の開発主軸はBAです。次に発表されるBA機があるとすれば、ほぼ確実に低音周りを改善したものでしょう。BAの世界に経験値ゼロから飛び込んだKZがここまで「聴けるBA」を作ってきたのはすごいことですが、いまだに低音担当BAであるKZ 22955がパワー・表現力ともにDDのそれにかなわないことは確かであり、ここでKZがあきらめるとも考えづらいですし、DDに漸近するようなBAを目標として開発を続けることは確言してもいいでしょう。もしKZがウーファー用BAの開発方針を変えることがあるとすれば、それはDDとは性格を異にするBAの良さを引き出したウーファーでしょう。
私としては、正直これからKZは今までのようには伸びていかないのではないかと不安視しています。今までは解決すべき技術的課題が沢山あったため、裏を返せば伸びしろがあったわけですが、今のKZイヤホンは欠点らしい欠点がほぼない。価格的に考えてドームをカーボンにしたり筐体をチタン製にしたりといった改良はこれ以上はできないでしょうし、そういうイヤホンを望むコンシューマーはKZの販売対象ではないはずです。
今年はZS7、ZS10 Pro、ZSN Proと非常に洗練されたイヤホンが出てきた一方で、傑作を世に送りすぎたためにKZの停滞元年となる可能性は十分にあります。BAも構造的に歪み特性を完全に払拭するのは難しいですし、DDはほぼ完成領域に来ています。ウーファーBAが完成されるまではKZが解決すべき大きな課題は残されたままになりますが、KZ 22955を超えるBAが完成した後のKZは現時点では全く予測不可能です。